サメといえば獰猛で恐ろしい海のハンターというイメージを持っている人も多いかもしれません。
ところが、世界の海に生息するサメの個体数はここ50年間で大きく減少しています。
水族館でおなじみのシロワニやアカシュモクザメ、ジョーズで有名なホホジロザメなども実は絶滅危惧種なんです。
今回は、多くのサメが絶滅の危機に直面している原因について解説します。
絶滅危惧種とは?
絶滅危惧種とは、絶滅のおそれのある野生生物のことです。
この絶滅危惧種をまとめたものがレッドリスト(正式名称:絶滅のおそれのある種のレッドリスト)です。
レッドリストは、国際的には国際自然保護連合 (IUCN)、国内では環境省のほか、地方公共団体やNGOなどが作成しています。
国際自然保護連合 (IUCN)では、地球規模で高い絶滅のリスクにさらされている種を分類するために「未評価」、「データ不足」、「低懸念」、「準絶滅危惧」、「危急」、「危機」、「深刻な危機」、「野生絶滅」、「絶滅」の9カテゴリーに分類しています。
絶滅危惧種のサメについて
サメは557種類
(2023年時点)
2023年時点でサメは世界に557種類いるとみられています。
一般的によく知られているサメといえば、ホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメ、ネコザメ、ラブカ、ジンベエザメなどがいますが、これらのサメたちは全体からみたらごく一部。
世界には557種類ものサメがいるんですよ(参考記事:「サメは何種類いるの?世界や日本の海にいる数は?【2023年版】」)。
みなさんがイメージしているよりもたくさんの種類のサメがいるんです。
絶滅危惧種のサメは何種類いるの?
では、この557種類もいるサメたちの中で絶滅危惧種のサメはどれくらいいるのでしょうか。
557種類のサメのうち、168種類が絶滅危惧種
国際自然保護連合のレッドリストでは557種類のサメのうち、約30%にあたる168種類のサメたちを絶滅危惧種と評価しています。
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストをみてみましょう。
絶滅 | 絶滅危惧種 | 絶滅リスクは低い | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1.絶滅(EX) | 2.野生絶滅(EW) | 3.深刻な危機(CR) | 4.危機(EN) | 5.危急(VU) | 6.準絶滅危惧(NT) | 7.低懸念(LC) |
どこにもいない | ほぼ絶滅 | かなりやばい | やばい | やばそう | そろそろやばい | 今は心配なし |
メガロドン | - | ヨゴレ、シロワニ、アカシュモクザメ | アオザメ、ニタリ、レモンザメ | オオメジロザメ、ホホジロザメ、クロヘリメジロザメ | イタチザメ、ヨシキリザメ | ネコザメ |
- | - | イリオモテヤマネコ、ラッコ | トキ、トラ | パンダ | トド | - |
- | - | - | ニホンウナギ | クロマグロ | - | ブリ |
※この他に、データ不足で正しく評価できない情報不足種 (DD / Data Deficient)、まだ評価がされていない未評価種 (NE / Not Evaluated)というふたつのカテゴリーがあります。 ※レッドリストについては『絶滅危惧種のサメの種類とは?IUCNレッドリストのまとめ【2021年10月版】』で解説しています。
絶滅リスクは過大評価されているのではないかという意見もありますが、絶滅した種は二度と復活しません。
そのため、絶滅のおそれが科学的に確実であることが実証されなくても、将来起こりうる危機を回避するために予防的な対策をとることもあります。
このように生物多様性保全を優先して、持続可能な利用に予防的な制限をかけることを「予防原則」といいます。
また、国際自然保護連合のレッドリストでは557種類のサメのうち、約12%にあたる72種類のサメたちをデータ不足と評価しています。
そのため、実は絶滅の危機にあるのにそれが判明していない種がいる可能性もあるのです。
絶滅危惧種には三段階ある
絶滅危惧種といってしまうと、同じくらいの危機にさらされているように感じてしまいますよね。
実は、絶滅危惧種といっても実はその中に危機度に応じて三段階あるんです。
- もっとも絶滅に近い「深刻な危機」のサメが35種類(ヨゴレ、シロワニ、アカシュモクザメなど)。
- 次に絶滅に近い「危機」のサメが77種類(アオザメ、ニタリなど)。
- その次に絶滅に近いのが「危急」のサメが56種類(ホホジロザメ、オオメジロザメなど)。
レッドリストでは個体数が減少している生きものをひとくくりに絶滅危惧種と評価しているわけではなく、危機に応じた段階があるんです。
サメが絶滅危惧種になってしまった原因
では何故、557種類のサメのうち、約30%にあたる168種類のサメたちが絶滅危惧種になってしまったのでしょうか。
サメが絶滅危惧種になってしまった原因を見ていきましょう。
混獲
「混獲」とは、漁獲対象でない魚を意図せず捕ってしまうことです。
サメはマグロを獲るためのはえ縄や巨大な巻き網(まきあみ)などで混獲されてしまいます。
これらの漁法はここ50年ほどで倍増しており、ヨゴレなど外洋で暮らすサメたちの個体数が大きく減少しています。
はえ縄
はえ縄漁業は江戸期の延享年間(1744~48)に房総半島の布良村(現・館山市)で始まった日本の伝統漁法です。
はえ縄漁法では、全長100〜130kmほどの幹縄を浮玉で浮かせながら長く伸ばし、そこから針のついた枝縄を垂らしてマグロを漁獲します。
まき網
まき網は魚群を網で巻くように(包囲)して、網を絞り込んで漁獲する方法です。
漁獲対象によってサイズが変わり、遠洋・沖合域のカツオやマグロを対象とする大中型まき網、沿岸海域ではアジ、サバ、イワシ類を対象とする中型まき網・小型まき網となります。
(イラスト:「農林水産省「漁業種類イラスト集 」」)
乱獲
乱獲とは、生きものの繁殖スピードを超えて、過剰に捕獲してしまうことです。
親世代のサメの個体数が減ると、次世代のサメの個体数も減ってしまいます。
乱獲を繰り返すことで次世代のサメの個体数が徐々に減っていき、やがては絶滅してしまうのです。
なぜサメが乱獲されるのかというと、サメのヒレが高価なためです。
サメの肉はとても安く、全長6.4mのホホジロザメですら、一万円程度で業者に引き取られてしまいます(参考記事:「ホホジロザメは日本のどこに生息している?海での目撃談や捕獲情報まとめ」)。
それに対して、フカヒレは中華料理の高級食材であるため高値で取引され、大型のサメのヒレは価値が高いようです。
そのため、フカヒレを目当てに乱獲されたり、密漁者に狙われてしまうのです(参考記事:「サメのヒレだけ取る残酷なシャークフィニングとフカヒレ問題」)。
繁殖率の低さ
一般的に魚は多産でクロマグロなど大型種になればなるほどたくさんの卵を産みます。
たとえば、クロマグロやマダイは数百万、ヒラメは数十万、マイワシは数万というとてつもない数の卵を産みます(渡辺良朗「海の生物資源―生命は海でどう変化しているか 海洋生命系のダイナミクス」東海大学出版会、2005)。
サメは赤ちゃんザメの数が少ない
ところが、サメの場合は成熟するまでに時間がかかる上に、6割近くのサメは人間のようにお腹の中で赤ちゃんザメを育てます。
そのため、一度に生める赤ちゃんザメの数が少ないのが特徴です。
たとえば、水族館でおなじみのシロワニは一回の出産で最大二匹、ジョーズでおなじみのホホジロザメは10匹程度しか産めません。世界最大の魚類であるジンベエザメですら、たったの300匹です。ジンベエザメよりもずっと小さいクロマグロやマダイですら数百万個の卵を産むのですから、比較すると大幅に少ないことがわかりますね。
サメはK戦略
ちなみに、一般的な硬骨魚類のようにたくさんの卵を産むことで多くの子どもを残すことで生存率を上げることをR戦略、サメのように少数の大きな子を産むことで生存率を上げることをK戦略といいます。
サメが恐竜よりも古い地球の大先輩として命をつなぐことができたのはこのK戦略のおかげかもしれません。
これまでであれば、K戦略は海の生態系の中で競争能力に優れており、生存率を上げることに役立っていたのかもしれません。
ところが、ここ50年間で人間が海に進出したことで、サメの繁殖スピード以上に乱獲や混獲されてしまい、30%ものサメたちが絶滅危惧種となってしまったのです。
K戦略は海の生態系の中では優位であっても、乱獲には弱いのです。
絶滅危惧種ではなくても個体数は限られている
ヨシキリザメやイタチザメは70匹ほどの赤ちゃんザメを産む多産なサメです。
日本では、ヨシキリザメは食用として、イタチザメは駆除の対象となっています。
どちらも絶滅危惧種ではありませんが、個体数が限られているという点では絶滅危惧種と同じなのです。
絶滅危惧種のサメにことを考えるのも大切ですが、ヨシキリザメやイタチザメのように今は絶滅危惧種ではないサメの個体数をどうすれば維持できるかということに取り組んでいくのも大切なことだと思います。
海の環境悪化
産業革命以降の人間活動により温室効果ガスの排出量が急激に増加したという話はみなさんご存知ですよね。
この温室効果ガスにより海水温が上昇しています。
水生動植物にとっての水温1℃の変化は、陸上生物にとっての気温10℃に相当する、という説もあるので海水温の上昇は深刻な問題です(参考:牧野光琢「日本の海洋保全政策: 開発・利用との調和をめざして」東京大学出版会、2020)。
また、海水温が高くなってしまうと海水に溶け込む酸素の量が減少しています。
酸素量は海面付近で最も多くなるため、酸素を求めて海面近くを泳ぐ魚が増えると考えられています。
そのためサメもこれまでよりも浅い水深を好む可能性があるため混獲されてしまうサメがますます増えてしまうかもしれません。
さらに、海洋酸性化、海洋ゴミ、沿岸部の汚水、海底資源の採掘、マングローブの伐採などによって海の環境は悪化しています。
そのためサメだけではなく多くの海洋生物にとって海の環境悪化は大きな脅威となっています。
サメへの悪いイメージ
サメは凶暴で人を襲う怖い生きものというイメージを持っている人も多いでしょう。
そんな恐ろしい生きものをやっつけてしまえという方も中にはいるのではないでしょうか。
ところが、サメと人間が遭遇することで最悪の結果となってしまうのは世界中で年間4〜6件くらいです。
世界中で漁獲されているサメの数は年間数千万匹から1億匹とみられており、これは1時間に1万匹以上のサメが漁獲されている計算になります。
それにもかかわらず、メディアではサメを恐ろしい生きものの象徴として悪者にする過激な表現が使われがちです。
ジョーズが公開された1975年以降はスポーツフィッシングの対象として多くのホホジロザメがターゲットとなり個体数が減少しました。
サメへの悪いイメージは無意味な乱獲や娯楽のためのサメ退治を肯定してしまうため、サメの個体数減少の一因となってしまうのです。
ちなみに、The Sun紙に掲載された地球上の危険生物ランキングによると、
年間の事故件数は、
- 犬は年間35,000件
- 人間は440,000件
- 蚊は年間750,000件
でした。
サメよりも人間や犬や蚊の方が怖いんですね(参考記事:「地球上の危険生物ランキング!人間に人食いザメと恐れられるサメは何位?」)。
絶滅危惧種のサメ保護を訴える前に
ここまで読んで、絶滅危惧種のサメを保護しようと思った人もいるかもしれませんが、感情的にサメの保護だけを訴えることやめましょう。
サメに対する考え方は国や地域、関わり方によってさまざまです。
感情だけでサメの保護に向き合ってしまうと、漁業者への批判、サメ食文化を持つ国々や地域の人々への批判しか生まれません。
サメの保護を考えることは大切ですが、感情まかせに行動することだけはやめましょう。
では、サメの保護のために私たちはどうすればいいのでしょうか。
人間は感情の生きものです。
感情的にサメの保護だけを訴えることはよくありませんが、個人の感情として生きものに対してかわいそうと思うのは人として当たり前だと思うんです。
保護論を語る上で感情は悪とされがちですが、AIじゃないので簡単に割り切れる話じゃないと思います。
大切なことは、その感情を肯定した上で、どうすればサメを絶滅から救えるか、それをを考えることだと私は思います。
サメの保護と利用の二項対立ではなく、真ん中くらいの視点でサメの絶滅の問題に向き合う人が増えればいいなと願っています。
まとめ
国際自然保護連合のレッドリストでは557種類のサメのうち、約30%にあたる168種類のサメたちを絶滅危惧種と評価しています。
多くのサメが絶滅の危機に直面している原因は、
- 混獲
- 乱獲
- 繁殖率の低さ
- 海の環境悪化
- サメへの悪いイメージ
です。
同じ地球に住む仲間として、サメのことを考えてみませんか?
大きなアクションを起こすことは難しいですよね。
現実的にできることとして、次のようなことを心がけてみるのはどうでしょうか。
- もっとサメのことを知ろう。
- 正しいサメの知識を周りの人に教えよう。
- 海の環境を守るためのアクションを起こしてみよう。
もっと深くサメの保全に関わりたいなら次のような選択肢があります。
中高生なら、水産系の学校への進学を検討してみるのもいいでしょう。
大学への進学を考えているなら、環境学や海洋政策を学べる大学への進学を検討してみるのもいいかもしれません。
学生の方なら、サメの保全に関われる職業に就くことを考えてみるのもいいかもしれませんね。
研究者や水産庁関連だけではなく、報道機関、水産コンサルタント、環境NGOの職員など、いろいろな選択肢があるでしょう。
サメの現状を知ることで、同じ地球で暮らす生きものとしてサメに優しい眼差しを向けてくれる人が増えてくれたら嬉しいです。
サメが絶滅の危機に直面している原因を動画で学ぶ
今回のブログの内容はこの動画でも解説しています。